ヒーリー「有機化学のための分子モデリングワークブック」 (フルカラー)
著者: W.J. Hehre, A.J. Shusterman, J.E. Nelson
訳者:幅田 揚一 
2000年3月
4,750円(税込)

 The Molecular Modeling Workbook for ORGANIC CHEMISTRYでは有機化学の授業を分子モデリング主導で実施するのに必要なすべてを網羅しています。使用している教科書の副読本として使用できるように、21章(以下参照)200以上の問題から構成されています。それぞれの問題は1つ以上の分子モデルを使用しており、問題を解くのにそのモデルを見て情報を入手することが要求されています。すべてのモデルは付属のCDROMに格納されておりMacまたはWindowsPCにて表示できるようになっています。

 合計で1000以上になるこれら分子モデルはこのワークブックの核心ともいれる存在として位置づけられており、分子軌道計算を実施した計算結果から分子構造、エネルギー、原子の電荷分布などのようなさまざまな数値的情報をえることができるようになっています。多くのモデルでは、そのほかに分子軌道、全電子密度面、静電ポテンシャルマップなどのグラフィックス表示が可能なものもあります。またモデルは安定な分子だけでなく、  反応の中間構造、不安定な分子、遷移状態も含まれています。またいくつかのモデルでは、コンフォメーション転移や反応の動きが表示できるように複数の構造の列で構成されたものもあり、アニメーションで表示できるようになっています。

 内容:
a.エネルギーの熱力学的および速度論的なデータへの換算方法
b.分子軌道:絵で見る量子力学
c.電子密度と分子の大きさと形
d.静電ポテンシャルマップと分子の電荷分布

第1章 ルイス構造と共鳴理論
第2章 酸と塩基
第3章 反応経路と機構
第4章 立体化学
第5章 アルカンとシクロアルカン
第6章 求核置換と脱離
第7章 アルケンとアルキン
第8章 アルコールとエーテル
第9章 ケトンとアルデヒド、求核付加
第10章 カルボン酸誘導体、求核置換
第11章 求核試薬としてのエノラート
第12章 共役ポリエンと芳香族性
第13章 芳香族求電子置換と芳香族求核置換
第14章 窒素を含む化合物
第15章 複素環
第16章 生物化学
第17章 ラジカル(遊離基)とカルベン
第18章 高分子(ポリマー)
第19章 分光法
第20章 質量分析法
第21章 ペリ環状反応

(前書)有機化学における分子モデリング

有機化学の入門編に分子モデリングを導入することはなぜ重要なのだろうか。有機化学を理解するために非常に多くの概念が不可欠なものとなっており、学生の前には未知の物質が山積している状態で、有機化学へのもう一つの次元の導入はどのように理由付けられるだろうか。加えて、モデリングは量子化学においてまだ学生に提供されていない基礎事項とは考えられないだろうか。学生が量子力学の基礎を習得するまで、分子モデリングによって考えることを引き延ばすのは実際良い方法だろうか。我々はそうは思わない。分子モデリングは、学生に有機化学を学習するための基本となる問題 -- 構造、安定性および反応性 -- をコンピュータを使用しないときよりもさらに明確に考えさせることができるだろう。

有機化学の入門編において、分子モデルが広く応用することができることを理解するために、分子構造と化学的、物理的および生物的な性質との間の基本的な関係を理解することは重要である。構造 -- 性質の相関と呼ばれているものは、それが化学の入門編であっても上級編であっても、ほとんどの大学における化学の授業で教えられている。学生諸君は、はじめに分子の構造について教えられ、次にその構造を分子の性質と関係付けるように教えられる。

化学において構造概念を中心としたこのような授業方法が広く使用されてきたことは、(二次元的な)分子構造の記述と扱いが高度に発達した科学には該当しない。分子構造を記述するために百年以上も前に導入された二次元的な線による構造は今もなお、教育や研究の場で日常的に使われている。専門家にとっては理解したり書いたりすることは容易だろうが、そのような絵は、彼らが書いたことになっている分子のようには見えない。事実、単純な線で描かれた絵をどのように解釈するか、あるいはそのような絵をどのように描くかを学習することは学生が直面している最大のハードルとなっており、、多くの学生が有機化学を難しいと感じる一つの大きな理由になっている。

分子構造を表示するためのコンピュータの使用は、いくつかの理由で昔から行われている線による描写にとって代わる魅力的なものである。第一に、コンピュータ上に表示されるモデルは線で描いたものよりも「実際の分子」に近いものに「見えたり」「ふるまったり」する。コンピュータモデルはいろいろな角度から眺めることができ、異なる表示方法は原子の位置、原子の体積、あるいは他の興味ある性質を示すために使うことができる。第二に、たとえ学生が分子の正しい書き方を知らなくてもコンピュータは良いモデルを作成することができる。従って、構造に対する知識が限られていたとしてもコンピュータを使って学習する学生は「化学の新しい領域」に入ることができる。第三に、有機化学の入門編で出会う多くの分子は、通常、簡単な絵では正確には表すことができない。この中には、電荷の非局在化、多くの不安定な分子、そして恐らくもっとも重要な反応の遷移状態などが含まれる。コンピュータモデルは、従来から絵によって表現されてきた構造と同じように、それらの化学種を扱うことができる。第四に、分子モデリングはエネルギーや双極子モーメントなどのような多くの化学的、物理的性質を予測したり表示させたりするために使うことができる。従って、コンピュータは構造を表示させるためのより簡単な道具として使うことができる。それはまた、多くの化学現象の視覚化、調査、学習を提供してくれる。これらの多くの利点は、コンピュータモデリングの授業への導入が、学生に分子構造 - 分子の性質の相関を教えるための大きな助けとなることを意味している。

従って、化学の履修課程における分子モデリングの早い時期での導入は、有機化学の学習を複雑にさせたり困惑させないばかりか、むしろ有機分子の構造を視覚化させて学生を助け、分子構造と分子の性質の間の親密な関係を学ばせることができるものと我々は確信している。